vol55 ベクトル
ベクトルとは、方向と大きさのこと。
僕は高校生の頃、地元の進学校に通っていた。
入ったはいいが、勉強はまったくしなかった。
定期テストの半分以上が赤点。
(赤点とは、30点以下のこと)
当時の通知表が出てきたので、載せておく。

テストの点は、これよりもっとひどかった。
そんな僕でも、一度だけ本気でテスト勉強をしたことがある。
生物のテストだ。
その学校には、名物先生がいた。
1年生のとき、授業中にいきなり「外に出ましょう」と言い出した。
何が始まるんだと思ったら、ただ校庭を回るだけだった。
先生は木や草を指差しては、「これは○○」「これは△△」と植物の名前を次々に挙げていく。
僕たちは、意味もわからずノートにメモを取った。
そして、次の定期テスト。
配られた問題用紙を見て、教室がざわついた。
「私が校庭で教えた植物の名前を書きなさい」
マス目が、100個以上。
テストというより、ちょっとした罰ゲームだった。
ただ僕は、このテストに山を張っていた。
暗記だけは得意だったからだ。
先生が言っていた植物の名前を、ノートにひたすら書き写す。
10回、いや、それ以上。手が覚えるまで書いた。
ヘクソカズラ。
名前がひどい。だから覚えた。
本番。
頭の中の植物を、片っ端からマス目に埋めていく。
人生でいちばん自信を持って、答案を出した。
ただ、話はここで終わらない。
テストの前日のことだ。
植物名はもう完璧。時間が余った。
「よし、せっかくだから数学もやっておくか」
調子に乗って、いちばん苦手な数学に手を出した。
公式を丸暗記して、一夜漬けで本番へ。
結果。
生物、75点。学年で10番以内。
正直、悔しかった。1番じゃなかったから。
そして数学、24点。
人生で初めてちゃんと勉強して、赤点。
完全に、ベクトルを間違えた。
あの日、数学に使った数時間。
あれを全部、ヘクソカズラに注いでいれば。