vol43 メロンパンアイス-マーケ編-
僕は今、事業をやっている。
といっても、やっていることは10年前の学祭の延長かもしれない。
―――
10年前。
九州大学経済学部3年の僕。じゃんけんに負けて、会計ゼミの副ゼミ長になった。
会計には興味がない。
1年のときに、単位も落としている。
けど、ゼミの説明会で立っていた一つ上のお姉さんが綺麗だったから入った。
人の発表中は、だいたい別のことを考えていた。
そんな僕が、ゼミで一度だけ本気で喋った日がある。
秋。
学祭の出し物を、翌日のゼミで決めることになっていた。
前の日の夜、ふと思い出したことがあった。
少し前の、ラクロス部の関西遠征。
京都大学への移動の合間に、街中でやたら長い行列を見つけた。
なんだこれ、と並んだ。
「世界で2番めにおいしい焼きたてメロンパンアイス」。
メロンパンにアイスを挟んだだけのものだった。
うまかった。
そして、福岡にはまだ無い。
これだ、と思った。
どうせ、学祭出るなら自分が売りたいものを売る。
その夜、徹夜でパワポを作った。
翌日のゼミで、熱弁した。
競合がいないから、強気の値段でいける。
アイスを挟むだけだから、作るのも楽。
「話題の」とつければ、みんな買う。
みんな、動揺していた。
あの豊島が?
無理もない。
僕は普段、発表の準備を一切してこない男だった。
前回など、資料を入れ忘れたまま登壇し、会計の話はせずにアドリブで前日に家で起きた水漏れの話をして終えている。
その男が、10枚のパワポを持って喋っている。
そこまで言うならと、メロンパンアイスに決まった。
―――
当時はそんな言葉も知らなかったが、僕がやったことには名前がついている。
タイムマシン経営という。
孫正義さんが、アメリカで見たビジネスを日本に持ち込んだ。あれだ。
流行には時差がある。
すでに答えが出ている場所と、まだ来ていない場所。
その差に立つだけで、勝率は上がる。
そして今やっている民泊事業も、同じ手だ。
アメリカで生まれ、東京と大阪で広がり、福岡に来たのはそのあと。
僕は、新しいことを何ひとつやっていない。
移しただけだ。
僕が徹夜でパワポを作れたのは、情報を知ったからじゃない。
自分が並んで、食って、うまいと思ったからだ。
「流行ってるらしいよ」と人から聞いた人間は、10枚も資料を作らない。
熱は、一次情報からしか出ない。
―――
こうして僕は、メロンパンに賭けると決めた。
決まったのは、メロンパンアイスとタピオカの2本立て。
ゼミは15名。
試作会でメロンパンアイス班に手を挙げたのは、3名だった。
Kくんと、後輩がひとり。そして僕。
残り全員、タピオカ班。
熱弁したのは、僕だ。
決まったのも、僕の案だ。
なのに、誰も来ない。
不安がないというと、嘘になる。
どうなるんだ?
(つづく)