vol44 メロンパンアイス-営業編-
売れると思っていたのは、僕ひとりだった。
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10年前の学祭。
ゼミ15名のうち、僕が推したメロンパンアイスに手を挙げたのは3人だった。
Kくんと、後輩がひとり。そして僕。
残りは全員、タピオカ班。
(そこまでの話 → vol43 メロンパンアイス-マーケ編-)
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学祭の前日。
準備をしながら、Kくんが言った。
売れなくてもしょうがないよ。楽しもうね。
Kくんは学祭のリーダーとして、誰よりも働いていた。
その彼が、売れないほうに賭けている。
メロンパンの入った段ボールを、両腕に抱えていた。
その背中を見て、やるしかないと思った。
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その夜、やったことは2つ。
前売り券を、自腹で30枚買った。
それを部活の同期に配って、LINEはよっ友まで含めて50人に送った。
もうひとつは、作戦ノート。
誰に、どの順番で、どう声をかけるか。
翌日の動きを、朝から夕方まで書いた。
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当日。朝9時。
看板を担当していたメンバーが、体調不良で休んだ。
テントに掲げる看板がない。何を売っている店なのか、誰にもわからない。
その場にいたメンバーで、急いで作った。
ただ、誰も焦っていない。
なんとか間に合った。
僕の担当は、売り込みだった。
チアの集団にも、子連れにも、カップルにも、アメフト部にも声をかけた。
意外にも、反応はいい。
「じゃんけんで勝ったら半額。負けたら人数分、買ってくださいね」
何人に負けただろう。
座ってご飯を食べている人にも、声をかける。
「食事のあとに、メロンパンアイスはいかがですか」
「今ならデリバリーやってます。走って持ってきますよ」
部活で鍛えた足腰が、こんなところで役に立つとは。
走って、走って、走った。
売れなかったら、どうしよう。
焦りしかなかった。
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営業って、シンプルだ。
前売り券を自腹で30枚。
LINEを50人。
じゃんけんで半額。
注文が入ったら、走って届ける。
頭のいいことは、ひとつもしていない。
どれも、一度に一人ずつしか増えない。
Airbnbの創業初期の話が有名だ。
部屋の写真が汚くて、誰も予約しなかった。
だから創業者は、ニューヨークのホストの家を一軒ずつ訪ねて、自分でカメラを持って部屋を撮って回った。
一軒ずつ。手で。
いま僕がやっている民泊は、そこから始まった商売だ。
最初の客は、勝手には生まれない。
取りに行くしかない。
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前の日、僕はゼミで10枚のパワポを使って熱弁した。
それで動いたのは、3人だけだ。
言葉は、熱を運ばない。
運ぶのは、動いている姿のほうだ。
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昼時。
いったん店舗に戻った。
そこで見た光景を、いまでも覚えている。
(つづく)